背徳夫人の甘い罠  玲奈T
「大黒君・悪いけどホテルまで来てくれんか・・」
得意先の野口社長から呼び出しを受けて、俺はとあるホテルへと向かった。
野口社長は一度ホテルにチャックインしてから我社まで出掛けて来て商談をするのが常であったが、今日は風邪でも引いたのか体調を崩していたのだ。
いつもであれば商談を終えると夜の町へと繰り出して、最後には女性と部屋でお楽しみというのがお決まりのコースなのだが。

「残念だな・今夜は君に付き合って貰おうと思ったんだがなあ・・」
残念そうな社長を部屋に残して、商談を終えた俺はエレベーターホールへと向かった。

やがて下から上がってきた箱の扉が開き、中から一組の男女が降りてきた。
俺の前を通り過ぎる時に、すれ違いざまに俺と女は目が合った。
「おや!?・・あれは確か・・・・」
女の方も一瞬ハッとした表情を浮かべたが、直ぐに俯くと足早に廊下を去っていった。
「あれは・・絶対に間違いないな」
俺の頭の中には一人の美人妻の顔と名前が浮かび上がっていた。

女の名前は梶山玲奈、得意先の大手アパレルメーカー「ムーンレディー」の社長夫人だ。
モデル出身でとよた真帆似のスタイル抜群の美人妻だ。
先月の新作発表パーティーで紹介されたばかりで、その時の印象が強烈に焼きついていてのだが、まさかこんなところで会おうとは思いもよらなかった。

「あの若い男は・・昼真っから二人でホテルに入るってことは・・」
社長はイタリアへ買い付けに出張中のはずだ。
「亭主の留守中に若いツバメとホテルでお楽しみかよ・・よくやるよな・・」
俺は二人が裸でもつれ合う姿を想像しながら、一人で思わず苦笑いをしてしまった。

「でも・・あの奥さんも俺に気付いていたはずだよな・・ひょっとしたら・・ひょっとするかもな・・」
俺はこの先何かが起こりそうな予感がしたのだった。
それは一種の期待感であったかもしれないが・・・。

そして、その予感は見事に的中した。
「一度お会いしたいいですけれど・・」
翌日梶山玲奈から電話が入ったのだ。

彼女が指定してきた場所は先日偶然に顔を合わせたあのホテルのセミスイートの一室だった。
「ごめんなさいね・・突然お呼びたてしたりして・・驚かれたでしょ・・」
その日の夕刻に部屋を訪れると、綺麗にドレスアップしたとよた真帆似の玲奈夫人がにこやかな笑顔で俺を出迎えてくれた。
「いや・・多聞奥様からご連絡があるんではないかと・・お待ち致しておりました・・」
じっと彼女の目を見詰めながら、俺は意味深にニヤっと笑いかけてやった。

「まあ・取り敢えず・・お掛けになって・・」
俺の態度に一瞬怯んだようであったが、玲奈夫人は再び軽い笑みを浮かべると俺を窓際のソファーに誘うのだった。

「おビールになさいます・・それともブランディーがよろしいかしら・・」
「ブランディーを頂きましょうかな・」
窓の外の景色に目をやりながら、俺は務めて落ち着きはらった態度で答えた。
しかしながら心の中では、これから一体全体何が起こるのだろうか?と言う不安と、ある種の期待感が複雑に絡み合っていた。


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