貞淑妻濡れた操  (前編)
「エエッ嘘でしょ!?・・そんなこと・・あなた・・・・」
夜遅くに一杯引っ掛けて帰ってきた夫の良介の為に、いつもの様にお茶つけの仕度をしていた神永日登美は夫の口から出た意外な言葉に自分の耳を疑うのだった。

「本当だ・・・人事部長から直接聞かされたから・・」
そう言うと良介は自棄になったように茶つけを一気に口の中にかきこんだ。

「どうするのよ・あなた?・・転勤だなんて・・今は我が家にとって一番大事な時なのよ・・あたし単身赴任なんて・・絶対いやよ・・」
「そんなことは俺にだって解ってるさ・・風呂に入って寝る・・この話は明日にしてくれ・・今日は疲れてるんだ」
夫の良介は声を荒げて立ち上がると、不安げに見つめる日登の視線を逃れるようにそのまま浴室に消えていった。

日登美は結婚して15年になる、麻生祐未に似た落ち着いた清楚な感じの美人熟女妻である。
サラリーマンの夫の良介は順調に出世し、三年前には郊外に念願の一戸建てのマイホームを建て、夫の両親を引き取って同居している。
二人の子供も素直に育ってくれて、来年の春には長女は高校、長男は中学とそれぞれ名門校への受験を目指して勉学に勤しんでいる。
そんな矢先に夫に転勤の話が出たと言うのだ。
「どうしようかしら・・」
日登美は一瞬呆然となりダイニングのイスに崩れるようにして座り込んでしまった。

あくる朝、いつもの様に家族を送り出した日登美は家事に取り掛かろうとするのだが、昨夜の夫の口から出た転勤と言う言葉が頭から離れること無く何も手に付かなかった。

「あの人では頼りにならないわ、もう・・私の力で何とかしなくちゃ・・絶対に単身赴任で別居なんて・・」
立ち上がると日登美は受話器を取り、意を決したように静かにダイヤルの上に置かれた指を動かし始めるのだった。

「もしもし・・・神永の家内でございますが・・」
「いやあ・・柿原君か・・ひさしぶりだなあ・・」
少々驚いたような懐かしい声が返ってきた。

日登美と良介は社内結婚で結ばれたのだが、それまで日登美は人事部に勤務しており、柿原と言うのは日登美の旧姓なのだ。
今の人事部長の荒井秀幸は当時は係長で日登美の直属の上司として一緒に机を並べて仕事をした仲なのだ。

日登美に気があった荒井からは何度か誘いを受けたのであるが、日登美はその都度うまく交わし、そして営業部のホープだった良介と結ばれたのだ。

「実は一度お目にかってお話したいことがございまして・・」
日登美が話を切り出すと、
「そうですな・・社内では何かと都合が悪いでしょうから・・どうです、一度ゆっくりと食事でもしながら・・懐かしい昔話でもしましょうか」
「・・ええ・・解りました・・」
一瞬戸惑いながらも日登美は人事部長荒井幸秀の申し出を受け入れることにした。
「はい・・解りました・・お伺い致します・・はい・・失礼します」

受話器を置くと、
「何とかなるわ・・何とかしなくては・・絶対に・・・」
何かを決意したかのように日登美は大きく深呼吸をするのであった。

その日は外で友人と食事をすると嘘を付いて日登美は人事部長の荒井に指定された料亭へと出向いた。
滅多には夜間に外出したことのない日登美であったので、
「へエエッ・・お母さん・珍しいな・・結構綺麗だよ・・・・ゆっくりしてきて・・」
子供達は日登美をからかう様にして快く送り出してくれた。
日登美もどこかウキウキした気分になっている自分を感じながら、久し振りに着飾って指定された料亭へと出かけたのであった。

「やあ・・久し振りですな・・相変わらずお美しいですな・・神永君が羨ましい限りだ・・」
久し振りに見る荒井は脂ぎった中年太りの醜い体型になっていた。
そして日登美を舐めるように見つめるその目には男のギラギラした欲望が溢れていることに日登美は不安を感じるのであった。

一刻も早く話をつけて帰らなければ。
焦った日登美は早速話を切り出したのだが、
「まあ、堅い話は後にして美味しい料理を召し上がって下さいよ・・まあ、とりあえず一杯どうですかな・・」
人事部長の荒井は日登美の心を見透かしたように話をはぐらかすと、日登美のグラスにビールを注ぎ始めた。

「ええ・・頂きますわ・・」
日登美はグラスを傾けるとゆっくりとビールを口に含み、意を決したようにゆっくりと喉に流し込む。
久し振りに口にする良く冷えたビールは緊張で乾いた人妻日登美の喉に少しほろ苦い味わいを残しながら、奥深くに染み込むようにして流れ込んでいったのだった。


続く

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